弥次喜多(やじきた)が啜(すす)るとろろ一杯と鞠子の樹に隠れた啜り泣き
翻画「鞠子の樹」軽薄な日常と深淵な宿命が織りなす、生別の対比
弥次喜多の軽薄な日常と、母子が背負う惜別
広重師が描いたのは、弥次喜多と母子の日常、とろろ汁店での一幕。 だが、翻画では、母子は旅立つ者を見送る、時代がら残酷な生別の象徴へと変容する。
母子の瞳が映しているのは、今ここにある「日常、娑婆」の風景ではなく、すでに闇の向こうへ消え去ろうとしている、もう一人の旅人の背中だ。とろろを啜る弥次さん喜多さんは知らん顔の日常、いかにもである。

「見送る母子ともう一人の旅人 対比する日常の弥次喜多さん」
旅人の眼裏(まなうら)に宿る葛藤と、鞠子の樹が放つ情念の氣勢
母子の背中から、旅人に向かう氣勢が静かにゆらぐ。その背後、梅の樹の花枝が流れるように、氣勢がもう一人の旅人の背を突くように低く伸びる。
もう一人の旅人の眼裏には、未知なる海へと駆り立てる惜別の情と、母子との日常にすがりたい慕情が渦巻いている。
その目に見えぬ心のゆらぎは、鞠子の樹の異形の姿となって現れる。 樹の重心は外なる海へと傾きながら、その枝先の氣勢は、愛惜を断ち切れぬかのように母子の方へと鋭く向かう。
人と樹木は、一つの情念としてここに結ばれる。 相反する二つの氣勢は、翻画の奥行きの中で互いを侵すことなく、静かな調和をもって見る者の眼に飛び込んでくる。
知らん顔で食らう者と、深淵を抜けて開花を待つ者
とろろを啜る弥次喜多の、どこまでも軽薄な日常。そのすぐ背後で、母子のゆらぎと鞠子の樹の氣勢が、音もなく深い宿命の網を広げている。
知らん顔で食らう者と、深淵を見つめて去る者。この埋めようのない落差こそが、漆黒の板の上に定着した「鞠子の樹」の真実だ。
※翻画より、母子の背後が梅の樹(花)ならば、鞠子の樹は、時節的にも、不二へ向かう、もう一人の旅人の開花を待つ桜花の芽であろうか・・・

©鞠子の樹|kakumaru7
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